私が6歳になる誕生日に、近所の家に住むお兄さんに頂いた「なんでもひとつ言う事きく券」を、私はずっと使わずに持っていた。私はもらった時にこの券をすぐに使いたい衝動をずっと堪えてなお、今までずっとこの券を見てはニヤニヤしながら生きてきた。私とお兄さんの出会いは、話を聞く限りでは私が産まれる前から出会っていたらしい。と、言うのも少し文脈から離れた話からする。母は私をお腹に抱えて買い物に出た帰りに陣痛を起こして倒れたらしい。その時に救急車を呼び助けてくれたのが、当時高校1年生だったそのお兄さんだったらしい。その時から我が家と縁があり家族ぐるみで仲良くさせてもらってるようだ。その話も6歳になった今日、聞かせてもらった。その話を聞いた時、私はとても顔が赤くなった。このお兄さんが私を助けてくれたかのような感覚に陥った。とても嬉しくなった。私は咄嗟に誤魔化すように、「お母さんは、その時何を買いにでかけていたの?」と、会話を続けたが、心中では別の意味でのドキドキが強かった。母は大事な時期なのにどうしても買いたい物があったと言う。その時に自分の手でどうしても欲しかったと。それが何なのかは、今もまだ、教えてくれずにいるのだ。因みにこの物語を綴っている現在の私の年齢は16歳。この頃から10年が経っている。その6歳の誕生日から翌年の誕生日プレゼントは熊のぬいぐるみだった。その翌年は文房具セット。「なんでも言う事きく券」は、それ以来もらう事は無かった。お兄さんはその券を使わないの?と何度も私を急かした。だが、お兄さん、侮ってもらっちゃ困る。私とて、もう願いは決まっているのだ。お兄さんに叶えて欲しい願いはこれしかない。
「私と付き合って下さい!」そう言って私は16歳になる誕生日に26歳のお兄さんに「なんでもひとつ言う事きく券」を叩きつけた。