路地裏を少し入ったとこにある
BAR【umbrella】。
あたしの行きつけの店。
落ち込んだ時、
嬉しい時…何かあれば
いつもここに足を運ぶ。

今日もお店の扉を開ける。
キィィィ…と扉が軋む音と
ドアベルのカラン、とした音が
一緒に店内に響く。

「いらっしゃい」

顔馴染みになったマスターが
グラスを棚に片付けながら
こちらを振り向く。
40代後半くらいのマスターは
一言で言えばジェントルマン。
紳士で気さくで、なにより
懐が広い。

「こんばんは。いつものください」

カウンター席が数席と、
BOX席が4つほどの店内は
アンティークな小物や
おしゃれな絵画が
シックな壁やテーブルに
飾られていて、
お客さんも結構多い。

「はい、いつもの」

そう言ってコースターの上に
“いつもの”グラスを置いてくれる。
置かれたグラスに手を伸ばし
くーっと飲む。
1日動き続けた身体に
アルコールが染み込んで、
身体の奥が少し温かくなる。

「で、今日はどうしたの?」

マスターが正面に立ち、
優しく問いかける。
時間は午後9時。
まだあたし以外お客さんの
いない店内。
声をひそめる必要もないのに、
マスターが小声で
例の彼氏?と問いかける。