ハッシュハッシュ・イレイザー


「今日ね、松永君と紫絵里にマリアの事話したんだよ」

 ベッドの縁に腰掛け、真理はこの日の出来事をマリアに報告する。

 横になっていたマリアは、ゆっくりと身を起こし、枕をクッションのようにして心地よい位置に体をもたせ掛け、聞く用意ができたと微笑んだ。

「それで、私の顔が見たいって言われたのね」

「あっ、わかっちゃった?」

「いつも同じこと言われるじゃない。だから私の状態を窺ってるのね」

「調子どう?」

「調子は悪くないわ。それよりも、昨日の報告を受けてないんだけど、遠足は楽しかったの?」

「ごめん、なんか疲れてしまって、報告するの忘れてた」

「嘘! 何かあったから、しない方がいいって、判断したんでしょ。私が気にするから。正直に言って、真理」

 黙っていたことで、却ってマリアに気づかせてしまっていた。

 簡単に逃げおおせる訳がなかった。

 マリアはハイドの存在をすでに感づいていた。

「ほら、何を黙り込んでるの、真理。ハイドに会ったんでしょ。それで良心の呵責を感じてるの?」

「マリアだって複雑でしょ。ハイドに会いたいのに自由に会えなくて」

「だからといって、真理がハイドと会ったからって気を遣うことなんてないわ。ただあなたに心配かけてしまうことが心苦しいだけ」

「私は……」

 その後の言葉を真理はどう続けてよいのかわからなかった。

 暫し沈黙が続いた。