ハッシュハッシュ・イレイザー

 もうその石に頼るのはやめて。

 そう言おうとした真理を邪魔するように、優介が元気に現れた。

「おはよう!」

 その声に紫絵里は反応し、笑顔を向けた。

「おはよう、松永君。なんか今日は一層元気だね。なんかいい事あった?」

「そ、そうかな。まあ、ちょっと一つ気がかりなことが片付いたからかな」

「気がかりなことって?」

「えっ、ちょっと昔のことさ。もう終わったことだから、俺も考えたくないんだ」

 恥ずかしそうにはぐらかそうとする優介だったが、真理は空気を読まずに突っ込んだ。

「昨日、帰る間際に声を掛けてきたあの女の子の事?」

「ちょっと、真理」

 紫絵里の方が気を遣い、窘めた。

「まいったな。まあ、あんなところ見られたら隠しようがないもんな。そうなんだ。放っておいた俺も悪いんだけどさ、俺、春休み前にちょっと怪我してさ、中学の友達と挨拶もなく別れたんだ。だけどこっちは怪我して動けなかったし、仕方がなかったんだけど、まあその時、一人であれこれ考えてたら色々思うことがあってさ、それで人生感が変わったんだ。そしたら昔の事どうでもよくなってしまって、高校に上がったら新生活に追われて忘れてたって訳」

 優介は中学時代の事は詳しく語らなかったが、すでにどういった事か聞いていた二人は、すぐに理解をしていた。

 要するに優介が言いたかったのは、不良だったけど、怪我したことで命の大切さに気が付き、心を入れ直して真面目になったということなのだろう。

 あの時、優介に注意しろと警告をされたが、そんな必要もなく、すでに別人のように心を入れ替えた後では全くの不要だった。