ハッシュハッシュ・イレイザー

「ほんとだ。あいつら、魚なんて興味ないから、スタスタ先進んでるな。他に見たいところあるから、さっさと済ませたいんだろうけど。瀬良たちはこの後、どこ行くんだ?」

「まだ決めてない」

「そっか、この辺り色々とあるし、また後で会うかもな。それじゃまたな」

 優介は友達の方へと行ってしまった。

 その様子を紫絵里と真理は黙って見ていた。

 彼女たちが背中を向けてる水槽の向こうでは、魚たちが、背びれや尾びれをたゆたいながら泳いでいる。

 秩序が保たれている偽物の小さな海の中で過ごす魚たちの世界は、幻想的に静かで平和だった。

 二度と本物の海には帰れない魚たち。

 本物の海が何であるかすらすでに忘れてしまったに違いない。

 帰りたいと思う欲望も抱かず、真実を知らないことで幸せなのかもしれない。

 欲望を抱かない魚たちは、みな穏やかに過ごせる。

 強いサメと弱い雑魚が一緒にいたとしてもそこに弱肉強食はなかった。

 しかし、水槽の外ではそういうわけにはいかなかった。

 紫絵里の気持ちはこの時、バランスを崩し、そして真理を違った目で見てしまっていた。

 紫絵里は真理と暫く言葉を交わさず、無言で青い世界を眺める。

 まるで深淵を覗くように──

 しかしその深淵も紫絵里を覗いているとは、考えたこともなかった。