教室の窓についた水滴を、自分の流してきたいくつもの涙と重ね合わせ、真理は内側の窓から流れる雨の滴を指でなぞっていた。
 
 雨脚が強くなってくる。

 入り込んでくる雨も気にせず窓を開け、水滴をいくつか顔に受けながら、雨降る垂れ込めた空を仰いだ。

 まだ誰も来ていない、少し薄暗い早朝の教室。

 静寂さに呑み込まれそうに、自分も消えてしまいたい気持ちに衝動的に駆られる。

 いっそ窓から飛び降りてみようか。

 自由になれるかもしれない、その誘惑に魅せられ、窓の下を見ながら葛藤するも、口元は少し微笑している。
 
 結局くるりと向きを変えて背中を向けた。

 ふと見た黒板の隅には、紫絵里が描いたハートマークがまだ残っていた。

 それが急に目に飛び込めば、一回り大きく膨張していく目の錯覚を覚え、心をざわつかせる。

 ハートというマークはどうしてこれほども、強いメッセージを秘めているのだろうか。

 文章の最後にに添えるだけでも、温かさを感じ、そこに愛があるように思えるから不思議だ。