ハッシュハッシュ・イレイザー

 真っ白いバラの花束を抱えて、にこやかに笑顔を向けて、閉めたばかりのドアの前に立っていた。

 冷たく凍りかけていた病室に柔らかな温かさが風となってすっと入り込んでくる。

 張りつめていたものが一気に揉み解されるように、それはそこにある全てのものが大らかさに甘んじ始めていた。

 鮎川華純が現れただけで、雰囲気ががらりと変わり、和やかさが広がった。

 紫絵里も、そしてそこに居た私ですら、予期せぬその鮎川の登場に唖然としながら、それをどこかで歓迎している節があった。

「瀬良さん、気分はどう?」

 はきはきとした透明な声。

 耳に心地よい響きがある。

 そこには華純の人柄が出てるように思えた。

 リクライニングしたベッドに背をもたげている紫絵里にゆっくりと近づき、白いバラの花束を華純はそのベッドの傍にあった台の上にさりげなく置いた。

 形が整った白いバラのつぼみが集まった花束は、清楚で無邪気に美しかった。

 白いバラが突然意味を成したように、紫絵里はそれを見るとボロボロと涙をこぼしだした。

 花に罪はない。

 でもこれを見れば否が応にも真理と優介の事を思い出さずにはいられないのだろう。

 それを察したのか、華純は眉毛を下げ気味に、気遣った。