ハッシュハッシュ・イレイザー


 紫絵里が怒るのも尤もだし、こんな話を聞いてもしっかりと受け止めているところは、癖がある性格のなせる業だと私は思った。

 夏の強い日差しが病室の窓から差し込み、外の焼き付けるような暑さが目から伝わる。

 それとは対象的に、温度調節がしっかりしている病室は、肌寒かった。

 紫絵里の心が冷え込んでいるように、この空間も冷たさが隅々へと伝播していく。

 紫絵里が怒っているのはあからさまだが、そこに歯を食いしばってその気持ちに抗っている様子も見受けられる。

 紫絵里は自分の心の中で、消化できない矛盾を感じているのかもしれない。

 私は紫絵里が再び話し出すまで気長に待つことにした。

 こういうのは慣れている。

 静寂さが私たちに考える時間を与えようと、いつまでもこの病室には音が存在していなかった。

 その無とも言えた空間に突然ノックが聞こえた時、パリンと何かが割れて突き破った気がした。
 
 それが軽やかで、行き詰っていた頭の中が一編に空間が広がり、紫絵里も私もハッとした。

 紫絵里は一瞬私を一瞥した後、迷いながらも「どうぞ」とその人物を病室に招いた。

 ドアが開くと同時に聞こえた「こんにちは」は、懐かしいと思える聞き覚えのある声だった。

 その人物は奥ゆかしく病室に入ってきた。

 担任の鮎川華純だった。