ハッシュハッシュ・イレイザー

 紫絵里の叫び声で、看護師が慌てて飛んできたとき、紫絵里はうわごとのように何度も「真理、真理」と部屋の隅にいる私を指差していた。

 だが、看護師には私は見えない。

 看護師は精神のショックから起こるただの悪い夢だと片付け、どうにかして紫絵里をなだめようと、何もいないと何度も言っていた。

 それで紫絵里も、やっと私が看護師に見えてない事に気が付いた。

「私は真理じゃないわ」

 私も訂正したが、その後で紫絵里は「マリア」と私を呼んだ。

「マリアでもないわ」

 私が溜息を吐いて少し呆れて言ったことで不思議に思ったのか、紫絵里は徐々に落ち着きだした。

 そのうち、看護師もほっとして、大丈夫だと判断すると病室から出て行った。

 私は病室の隅に立ちながら、声を失って疑問符を頭に乗っけた紫絵里をじっと見つめていた。

「じゃあ、誰なの?」

 ようやく声が出た紫絵里は、やはりどこか人と違う感性があるもんだと私は思った。

 看護師に見えなかった私を、あっさりと受け入れ、怯えるよりも、それが何であるか確かめることを選んだ。

 だから私は紫絵里を気に入って、ニコッと笑った。