ハッシュハッシュ・イレイザー

 一人だけの物思いにふける時間だと思っていたその時、ガラッと勢いよく教室のドアが開き、ドキッと恐れるほど身を縮ませる。

 振り返れば、自分以上に驚いていた顔がそこにあった。

 丸くした目を向けた優介が、声を詰まらせながら、そこに立っていた。

「真理……」

 やっとの思いで出した、息を喘いだ優介の声。

 切なく名前を呼ばれ、スイッチが入ったように突然真理の胸がドキドキしてくる。

 紫絵里が居ない場所で、優介と二人っきりになったのは初めてのことだった。

「どうしたの?」

「えっと、その、俺、教科書忘れて、取りに来たんだ。もうすぐテストだろ。なかったら勉強のしようがないもんな」

 慌て気味に自分の机に近づき、中から英語の教科書を取り出した。

「これこれ」

 教科書を真理に突き出して、恥ずかしげにヘラヘラと笑っていた。

 それにつられて真理もクスッと笑った。

 緊張が解けて和んだ空気が流れると、優介は勢いに乗るように教科書を開いた。

「この不定詞と動名詞がややこしいんだよな」

「わかる。どっちも使えるのに、使い方で意味が違ってくる動詞があるから、どっち使えばいいのかこんがらがるね」

「そうなんだ、stopや rememberなんかは、to+動詞の原形だっけ、それとも動詞+ingだっけ、ってとっさに出てこないよ」

 優介の指差すページを近くで見ようと、真理は優介の傍に近寄った。