傍に真理がいるのに、紫絵里はその存在に気を遣うこともなく、時々真理を無視している。

 それは二人の間では暗黙の了解のように、紫絵里が優介と話している時、真理は遠慮することを義務つけられているようだった。

 しかし、この日は違った。

「でも松永君、数学得意でしょ。松永君は理数系なら強いと思うな」

 真理は優介がちょうど机から出した数学の本を大胆に奪い取り、ページを捲った。

「この問題なんだけどさ、これ教えてくれない?」

 教科書の問題を示すも、真理の白いほっそりとした指先が先に優介の目に入った。

「えっと、それは」

 問題よりも真理の手の方が気になる。

 しどろもどろになりながらも、優介は期待されている分、必死になってその問題を解いた。

「多分これであってるはずだけど」

 遠慮がちに真理を見つめれば、そこには素直に感銘を受けて驚いている顔があった。

 その後、優介の目をしっかりと見つめてニッコリと微笑まれ、優介はドキッとしてしまう。

「すごいわ。松永君」

 いつもは目を逸らし、顔を隠しがちの真理だが、まともに見たその笑顔ははっきりと美しさが浮き上がって見えた。