その花には名があった。 蝶が舞い降りた時に、小さな声できかれたが、 答えることができなかった。 「あなたの蜜を頂いてもいいですか?」 続けて質問されたが、 答えることができなかった。 蝶は、開いたままの花弁を見渡して、良しとみたのか、 優しく蜜を吸った。 身が震える。 風のせいだけではない。 全身に歓喜の熱が迸(ほとばし)った。