それからは、観覧車での事が気になって上の空になってしまった。
そして、気づいたらもう家の前まで送ってもらっていた。
「椿、今日はありがとう。」
「や。俺も約束果たせたし、なんかスッキリした!」
私、何て言おう。
私自身、まだハッキリと気持ちが決まってないのに、なんて椿に答えればいいんだろう。
くしゃ。
っと頭を撫でられる。
「………わかってるから。答えなくていい。」
そして、手を引かれてギュゥッと椿に抱き締められる。
「これから、仕事の引き継ぎとかでいろいろ忙しいんだ。」
抱きしめていた手を離し、私の両手をぎゅっと握る。
「だからきっと、もう会えない。」
離された手。
一歩後ろに下がる椿。
やけにまわりが、静かに思える。
まるでこの世には私達しかいないように。
そして聞こえる。
澄みきった椿の声で
「さよなら。都。」
椿が唇を噛んで、何かを堪えている顔をする。
椿のこの顔、いつか見たな。
そうだ。
高校の卒業式だ。
あの時も椿はこの顔をしていた。
そして言うんだ。
「バイバイ。」
椿はそう言うと車に乗り込み行ってしまった。
私はただ力なくその場に立ち尽くしているだけだった。