「………………なんのよう。イヤホン返してよ。」



椿から腕を振り払いながら少しだけ睨む。




「……………やだね。」




椿は私から取り上げたイヤホンを反対の手でぐっと持ち、私が届かないように手を挙げた。



「もう、さっきからなんなの?いい加減にしてよ。」



「お前こそ、なんなんだよ。」



「はぁ?何が。私はちゃんと場の雰囲気に合わしてたわよ。」



「………俺のこと、見もしないし、俺の話題になればあからさまにドリンク取りに行ったりするのが?」




確かに私は椿の事を視界に入れないように、聞こえないように、必死に椿を排除しようとしていた。



「はぁ………。どうも申し訳ございませんでした。」



椿に社会人になって身につけた丁寧な謝罪をすると、椿の方に手をさしだす。


「早く返してよ。」


「都。また俺からそうやって逃げようとするんだな。高校の時から変わってねぇ。」


差し出した私の手をぐぃっと、自分の方に引っ張ると、




椿は私にキスをした。




頬やオデコとかではなく。




唇に。




子供のキスとは違う、大人の椿を感じるキス。




私は少しの間だけ、ぼーっとしていたけど、すぐに椿の胸をドンドンっと叩いて、押しのけようとする。



少しして離れた椿は、なんだかとても満足そうな顔をして、さっきまでしていた余裕ある微笑みとは違う、少年みたいに嬉しそうな笑顔をしていた。