一見、わかりにくい場所とも思えるその軒先には、数人の客がいた。店内を見渡しても、絶えず客が入ってくるのを見て、人気のある店なのだろうと考えていた。
外見だけでは想像できない、広い店内は思っていたよりずっと奥行きがある。
所せましとケーキを中心とした洋菓子が並ぶショーウィンドウの横には、数席の飲食のスペースが置かれていた。ウォールナットのような落ち着いた色合いの木のテーブル。
あえてバラバラな椅子にしたのだろうか。揃っていない模様と素材の家具を見て、ちょうどよい塩梅のお洒落さが目を惹いた。
「何買いに来たの?」
カバンを置いて、学生服からお店の制服らしきブラウスに着替えた先輩が、お店のショーケースの前に立つ。
ぱりっとした大きな襟には、バッチみたいなものがあしらわれていて、よくわからないけれど、菜子の目には一人前の職人のように映る。
「誕生日ケーキを……。あの、7歳になる弟のなんですが」
手垢一つない、ぴかぴかに磨かれた透明なショーケース。その中にあるたくさんのケーキが、大切な宝物が保管されている宝箱のようだ。
色とりどりの宝石のような果物が乗ったフルーツタルト。ルビーのように鮮やかな苺と生クリームで白く化粧されたショートケーキ。茶色い濃厚なチョコレートが艶やかに光るショコラケーキ。
女性の好みそうな目に鮮やかケーキから一転、小さな子供が好むキャラクターの顔のケーキ。目移りしてばかりで、なかなか決定打に至らない。

