「おねっちゃん! もうお父さんくる?」
「もうすぐ着くよ」
そろそろ着きますと書かれた、父からの文面を表示された画面を楓に見せると、今か今かと父の帰りを待ちわびている。
改札口を覗いては、背が低いためか、遠くまで見えないのを煩わしく感じているようだ。
「抱っこして」なんてわがままを言ってくるのは、なんとも微笑ましく、父もきっと嬉しいと思う。去年の今頃は、そんな雰囲気ではなかったから。
「お父さんっ!」
スーツを身に纏った父を見つけて、楓は一目散に駆け寄った。嬉しそうに胸下ほどにある弟の頭を、大きな手のひらで撫でまわす。
ネクタイを片手で緩めると、改札にかざした定期をカバンに入れて、
「じゃあ行くか!」と人混みの中に飛び込んでいく。
「たのしみだねー」
「楓は迷子にならないようにね」
「ならないよっ!」と、口を尖らせて、父の隣をちょこちょこと歩く弟を茶化していた。
同じように夏祭りに向かうであろう、浴衣を着た女性たちや色めきたつ人混みの中に、一人離れて吸い込まれそうになる弟が、必死に父のズボンを掴んでいた。
皺々になったズボンを、父は優しい眼差しで見つめていて、ぽっかり空いた大きな穴を埋めるように、小さな手を取って歩いた。
「あれ買って!」
つやつや光るりんご飴に、戦隊もののヒーローがプリントされた綿菓子の大きな袋。
いつ使うんだよ、と突っ込みを入れたくなる赤いヒーローのお面は、意気揚々と頭につけて、陽気なBGMの中を歩いて行く。
小さい手のひらにいっぱいの荷物を持って、はしゃぐ姿が可愛らしい。
さっきまでかき氷を食べて、べろが真っ青になった菜子を指さして笑っていた楓のべろはまだ緑色をしていた。

