偽りのヒーロー





「じゃあ、私今日バイトだから。お先に」



 放課後、早々と教室を後にする菖蒲に、菜子はひらひらと手を振った。

バイトに行く生徒や友人と遊びに行く生徒、掃除をする生徒の傍ら、廊下で話に花を咲かせじゃれ合う男女。

クラスメイトを尻目に、菜子は机の上で教科書とノートをとんとんと整えカバンに入れる。帰宅準備をするために。



「我ながら真面目だな」



 置き勉、いう概念を覚えたのは、高校に入ってからのことだ。主に隣の席の友人、レオから得た知識なのだけれど。






「レオ、それ持って行かないの?」



 ペタンコのいかにも軽そうなリュック。

大きな荷物さえ飲み込んでしまいそうなバッグに、ペットボトル飲料だけを突っ込み、教科書やノートの勉強道具を雑然と机の中に突っ込むレオに声をかけた。



「どうせ持ってっても家で勉強しねえもん。重いのもヤダ。菜子はそれ全部持って帰るの? 重くね?」



 宿題が毎日のように出た中学と違って、高校では宿題の少なさに驚いていた頃だ。

宿題はなくとも、自主学習、いわば菜子にとっては律儀に予習して授業に臨むことが以前の宿題の代わりになると疑わず、くそがつくほど真面目に勉強道具一式を持ち帰っていた。



 学校指定の、リュック型のスクールカバンを背負っていた中学生の頃と違って、高校では自由なカバンの通学が許可されている。

多くはスクールカバンやリュックを背負って、キーホルダーやヘアアクセサリーなどをつけて自分らしさを演出している。


菜子のカバンの自分らしさと言えば、飾り気のないカバンに、パンパンに詰められた教科書とノート。

少し短くしたスカートの制服にそのカバンはないでしょ、と友人に言われて、初めて置き勉なるものが浸透しているのだと知った。




 確かに持って行っても、全ての強化を網羅するのは無理な話だ。

何教科かを選定して持って帰ると、こんなにも通学が身軽に、それでいて手をつけられない無駄に持っていた、カバンの中に綺麗に収まる教科書を見て、罪悪感を感じることもない。

目から鱗のこの習慣に初めの頃は感激しきりであった。