「何で今まで黙ってたわけ? 原田くんと知り合いだったって!」



 腰に手を当てる菖蒲に、菜子はあわわと口を開いた。



「ふ、不可抗力! ていうか知らなかったんだって! 直っぴ中学んときと全然違ったからさ、同じ学校にいることすら知らなかったんだよー」



 泣いたふりをする菜子が、大口を開けて弁当にがっついていた。反省の素振りを見せない菜子の耳を、菖蒲はぐいぐい引っ張っていた。

 対して飄々とパンを口に運ぶ未蔓と、頬を机にくっつけたレオ。後者にいたってはその体勢のまま、じっとこっちに視線をよこしていた。



もはやその態度で菖蒲にもレオの好意が顕わになってしまったともいえよう。



「もう私ほんと、恥ずかしいわ、なんか、もう……」

「�もう�の活用、すごいうまいね」

「……菜子。冷やかさないで」



 しゅん、と肩を落とした菜子は、今度こそ反省の色を見せていた。

菖蒲はぷりぷりと怒っているようだが、未蔓を目の前にして、あまり饒舌に話をできないことがもどかしい。

何しろ菖蒲の意中の人は、未蔓なのだから。



「……あとでパフェ、驕ってよね」



 これでもう隠し事をしていたことは許します、菖蒲の言葉はそういう意味を含んでいるようだった。ぶんぶんと首を振ると、「後で菖蒲んとこ行くよ!」と、菜子はあっけらかんと言った。


「それじゃあ、私は食べられないじゃない」



 菜子が来ても菖蒲がバイトをしていたら意味がない。

一緒に食べることすらできないと、暗にそう言う菖蒲は、眉毛を下げて笑っていた。