紫璃から告白をされて数日。何事もなかったかのように、至って普通の学校生活を送っていた。
自分から告白の話題を持ち出すことも憚られて、流れに身をまかせているうちに、菜子と紫璃は二人で過ごす時間が多くなっていた。
紫璃に誘われるがまま、放課後に寄り道をしたりした。
ある日はファーストフードで話したり。ある日は放課後教室に残って話したり。ある日は公園の椅子にぼーっと座ってみたり。
デートなのかどうかもよくわからないまま、日常を過ごしていた。
「お前といるとなんか隠居した気分になるわ」
ボリュームたっぷりのハンバーガーにかぶりつきながら、そんなことを言っていた。隠居した人がそんなに大口を開けて、重い食べ物を食べるのか。
言葉と仕草が妙に合っていなくて、可笑しくなってけたけた笑ってしまった。
「普段のデートってどういうことしてるの」そんなことを聞いたら、急に紫璃の口が重くなった。
「まあ、……女の家行ったりとか」
さすが、とツッコミのタイミングを逃さなかった。
「他になんかないの」、とストローを転がして聞くと、「覚えてない」と言っていた。
そのときは、あまりにつき合いが多すぎて、覚えるのも大変なのだと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。
お金も時間も限られている。そんな高校生のデートなんていうものは、同じことの繰り返しで、僅かながら、菜子には罪悪感が募っていた。
「つき合わせて、ごめんね」
この言葉を何度も何度も浴びせていた。「そんなつもりはねえけど」そんなこと言ってくれるのが、せめてもの救いだった。
ある日、たまには休みの日にどこか行くか、なんて話になった。
バイトがある、といったんは断った誘いを、「そんなに遅くまでは連れまわさねえよ」という結城くんに甘えて、それを受け入れた。
映画館にレディースデーがあるのは知っていたけれど、カップル割引なんていうのは知らなくて、それを使って入ったら、なんだかくすぐったい気分になった。

