偽りのヒーロー




 体育祭、やる気のなさそうな一之瀬くんが、菜子を連れて、ぱたぱた走っていった。

芝生の上にしゃがみこむ二人が、肩をぶつけあって、顔を見合わせて微笑んでいる。他の女性を避けるために菜子と帰ろうとした一之瀬くんは、菜子の頭はふわりと優しい顔で撫でるのだ。




 心が黒く淀んでいくのが分かった。

それまでも、いろいろ噂なんて耳に入っていたのに。

嫌が応でも、二人の仲を突きつけられる。目で追う一之瀬くんの隣には、決まったように菜子がいる。



 どうしよう。その迷いは、ぎこちない態度となって表れた。

最初は、ちょっと懲らしめてやれ、くらいの気持ちだった。けれど、自分がされて嫌だったことを菜子にしてしまっているのが、少し罪悪感があって。

日に日に謝るタイミングすらわからなくなって、菜子のことを無視してしまった。





 ——ああ、やってしまった。

後悔したのは、無視を決め込んですぐのこと。



中学のときみたいに、きっと誰かに告げ口されて、またいつの日かのように、私のまわりには人がいなくなってしまうだろう。

身体が震えた。恐くなった。朝、教室のドアを開けるのが、苦痛だった。