ある日突然、クラスの女の子が口を聞いてくれなくなった。
理由なんて、今となっては曖昧で、ぶりっ子だなんて言いがかりにも似たものだった。
前日までは笑って話していたはずなのに、その日、教室のドアを開けたら、誰も「おはよう」と声をかけてくれなかった。
その日限りのものかと、若干の不安を覚えて、次の日も変わらず学校へ通った。でも、昨日と状況は変わらなかった。
確かあれは、中3の3学期のことだった。
いじめと声をあげるにも、靴を隠されたわけでもなく、教科書を破られたわけでもない。ただ女の子が、無視を決め込んだだけ。
それだけのことが、毎日の色を失くした。
楽しい頃は、毎日が色鮮やかなはずだったのに、無視されるようになってからは、時間が早く過ぎてほしいと何度も何度も教室の時計を見上げていた。
女というのは残酷だ。
それまでは、クラスの女子だけが無視の対象だったはずなのに、噂が噂を呼んで、いつしか学校中の女子生徒に無視されるようになっていた。
学校中、というのは被害妄想かもしれない。けれどあのときは、学校にいる女の子みんなが敵に見えていたことは確かだ。
高校生になると、一人になることを恐れて、手っ取り早く味方を手に入れよう。そんな考えで、菜子に声をかけた。席が近くて、仲良くなるには十分の材料だったし、何より無害そうだと、そう感じたから。
菜子は入学式当日、早々に遅刻をしていた。
目立ちたがりかよ、と心の中で舌打ちをしたけれど、後ろの席からはあはあと呼吸を整える音が聞こえて、一応は急いで来たんだな、と思っていた。声をかけるにも、誰でもいいわけではない。
昔の経験則から、やばいと直感の働く奴は、蚊帳の外だ。
化粧っ気のない、けれど最低限のことをしていそうだなと、全身を見て品定めをした。
ファンデやチークは塗っていないようだが、薬用リップくらいはつけている。爪も磨いてはいないようだけれど、短く綺麗に切りそろえられている。ぷんぷん鼻につくような香水をつけているような気配もなく、真面目に先生の話を聞いていた。
話してみると、意外にも高くない声で、おまけに思ったより背も高い。
すぐにクラスに溶け込んで、クラスメイトの女の子たちに名前で呼ばれて笑っていた。一週間後には、お菓子を交換したりするくらい、いろんな子に声をかけられていた。

