机の上にあったはずの帽子が、無い。
きっとさっきのホテルマンに商品と間違われてしまったのだろうか。
私は慌ててホテルマンを呼ぼうと電話に手を掛けようとする。
すると、ピーンポ-ンとチャイムが鳴った。
私はドアを開けると、そこには先程のホテルマンが立っていた。
訳が分からないが、きっと近くを通りかかったのだろう。
彼に事情を話すと、わかりましたと言わんばかりに頷き、スーツケースに手を入れる。
たくさんの荷物をどかし、目的の帽子を取り出すと、荷物を元通りに戻していく。
「チップを...」と言いかけると、彼はやはり先程と同じようにチップを戻す。
さすが帝王閣ホテル。サービスが手厚い。
ホテルマンにお礼を言う。
時計を見る。9時45分。
そろそろチェックアウトしようかしら。
忘れ物が無いか机を見る。
あれ?パスポートが見当たらない。
私は慌ててスーツケースの中を見る。
やっぱり。ケースの一番下に、物と物の間に入っている。
電話機に手をかけようとする。
が、彼に気を使うのもイヤだからやめた。
私はスーツケースの前にしゃがみ、そーっとトランクの中の荷物を取り始める。