「それで?」

「私たちが話をしていたのが3階の自販機前の休憩コーナーだったんだけど、
ちょうど社長が通りかかって、社長の耳にはいってしまったの。
そしたら、社長が『ユウちゃんの気持ちはわかる。
君たちをずっとみてきたからね。
ただ、このまま君を辞めさせるのは私の本意ではない。
あと2か月我慢してくれないか。』そうおっしゃったの。」

「だから、この時期に来たってこと?」

「そうなんだけど、この話には続きがあって。」

「マザーヘルパー社は辞めたけど、つながりがあるってこと?」

「トモ、鋭い!三枝先輩との話を社長に聞かれた3日後くらいだったかな、
社長と人事部長に呼ばれて『友行くんのところに行きたい気持ちもわかる。
わが社にとっては、君も友行くんも大事な存在だ。
実は、友行くんの開発した商品をアメリカで売り出したいって話が来ている。
アメリカでの販売は当然、わが社と提携関係にあるSG社だ。
すなわち、友行くんが技術研修に行っている会社だ。
君は留学経験があって、英語が得意だし、
SG社とわが社の架け橋になってみないかね。
君はまだ退職関係の申請書類を提出したわけではないから、
社員として、出向という形で行くこともできる。
ただ、社員ということになれば、
業務の関係で希望した期間で仕事が終了するわけではない。
そのまましばらくアメリカに残ってくれということだってあるだろう。
社員として関わる方法もあれば、フリーの契約で関わる方法もある。
もちろん、友行くんの奥さんとしての生き方を優先することもできるだろう。
考えてみてくれたまえ。』と言ってくださったの。」

トモは自分の開発した商品がアメリカで販売されることを初めて知って、
信じられないというような表情だった。
なんとなく、目にはうっすらと涙を浮かべていた。

「トモ…。ずっと、黙っていてごめんなさい。」