ーside遥香ー


尊の話を聞いてみて、私は確信した。


私にも希望がある。


「遥香、もう寝な。」


尊は、私が頭痛と睡魔に襲われていることに気づいてくれた。


「もう眠いだろ?」


「ごめん…」


「謝るなよ。無理はしてほしくないからな。」


「尊。」

尊は、私の手を握ってくれた。


私は安心して眠りにつくことができた。


それから、どれくらい時間が経ったのだろうか。


次に目を覚ました時は、窓の外が真っ暗だった。



どれくらい寝てたんだろう。



身体もだいぶ軽くなっていた。



目を開けた私に尊が気づいてくれた。


「遥香、起きたか?」


「うん…」


起きたけど、どうして酸素マスクつけてるの?


私は、つけている酸素マスクを外そうと手にかけると…



「遥香、まだ外さないで。」


「なんで私…これつけてるの?」


「さっき発作が起きたんだけど覚えてない?」


「うん…。」



「そっか。胸の音だけきかせて。」


服を少し浮かせた。


少しだけ安心した顔をした尊。


「よかった。正常だよ。」


私も、その言葉にほっとした。

すると、尊は私のおでこに自分のおでこを当てた。


あまりにも…


尊の顔が近い!



「尊?」


「熱下がったみたいだな。」



そう言って、尊は笑顔を見せた。


「顔近いよ!」


尊の胸をつき返そうとするけど、私は尊の腕の中に引きずり込まれて抱きしめられていた。


私、まだ病人なんだけど?


そうは思うけど、やっぱり尊の温もりは安心する。


「遥香、酸素マスク外そうか。」


呼吸が落ち着いてきた私に尊は酸素マスクを優しく外してくれた。



「尊、私ね決めた。」


「ん?」


「私…絶対移植して治してみせる。私も、ちゃんと向き合う。自分の病気に。」


「遥香。」

尊は、そう言葉にした私を優しく抱きしめてくれた。


「頑張ろうな、俺もついてるから。」


「私もついてるわよ。」


私は、近藤さんがいることに気付かなかった。



尊も、気づいてなかったみたいで焦っている。



「点滴取り替えようと思って来たら、悪いところ来ちゃったね。でも、遥香ちゃんには私もついてるから。手術には、私も入る。」


「近藤さん、オペ看の資格持ってたんですか?」


「はい。私はここの病院に来る前までは外科のオペ看として働いていましたから。」



「それなら、言ってくださいよ。」


「すみません、佐々木先生はご存知かと思ったので。」



「院長から、何も聞いてなかったからな…。これからは、近藤さんにもオペの方にも入ってもらっていい?」



「もちろんです。」



「遥香、来週退院しようか。」



「え?」


「俺が、家で遥香の病態を診るから。それを約束に院長にも話をつけてきた。1週間はここで様子を見て、遥香が大丈夫そうなら退院しよう。」



「やった!」


「こら、いきなり動かないの。」


あまりにも嬉しくて、点滴を刺していることを忘れて私は両手をあげていた。


「ごめん、嬉しくて。」



「時々、子供みたいになる遥香ちゃんって可愛いわよね。」


「近藤さん、バカにしてませんかそれ。」


「してないわよ。時々、私よりも大人に見える遥香ちゃんだから、こういう1面が見られることが私も嬉しいの。」


「私よりもって。近藤さんの方が十分大人です。」


「そうかしら?」


「はい。」


「あ、そうだ。遥香ちゃんと佐々木先生にご報告があって。」


「ん?」


「私、朝陽と結婚することにしました。」


「え!」


「もちろん、結婚しても仕事は続けようと思っています。」


よかった。

結婚は嬉しい報告だけど、近藤さんが辞めるなんて寂しい。

それに、私は近藤さんにしかちゃんと話ができない。


それを知っている近藤さんは、他の看護師を私に回したりはしなかった。


近藤さんの、嬉しい気遣い。



「それじゃあ、あとはお願いします。」


「分かった。」


近藤さんは、そう言って点滴を変えてから病室を出た。