ーside尊ー


遥香に、プロポーズしたら泣いて喜んでくれたことに俺は幸せを感じた。



遥香のことを幸せにしてやる。


病室に着くと、院長である父親の元へ向かった。



「失礼します。」


「尊、どうした?」


「実は、担当している患者さんが今日卒業式でそのお祝いを…」



「遥香ちゃんだろ?」



「え?」



「尊、俺が気づいてないとでも思ったのか?」



「あ…うん。」



「俺は、そこまで鈍感じゃないぞ?それに、看護師達が噂しているの耳にしてるよ。」



「噂?」



「美男美女カップルって。」


自分でも、顔が赤くなっていることが分かるほど、顔が熱くなっていた。



「尊は、遥香ちゃんのことを支えて守っていく覚悟はあるか?」



「もちろん。」



「よし。それなら俺も尊とはるちゃんのことを応援するし支えていくよ。」



昔から父さんは、あまり家に帰らなかったから俺の恋愛事情を知らないものだと思っていた。



だから、俺の恋愛事情なんて興味が無いものだと思っていた。



大人なのに、そんな小さいことを考えていた自分に恥を感じた。



院長から許可をもらえて、遥香のいる病室へ向かった。



病室に向かうと、ベット柵に掴まって前かがみになる遥香の表情が険しかった。


「遥香、苦しいか?」


遥香の隣に座り背中をさすった。



「尊、胸が痛い。」



「え?」



今日は…喘息の発作が起きていないよな?


もしかして…



「遥香、ちょっと検査しよう。」



「え?」



「大丈夫だから。俺が検査するから安心しろ。」



俺は、近藤さんを呼んで検査の準備を整えて、遥香を検査室に向かわせた。



エコー検査で見つかった…




遥香は、心臓病を発症してしまった。



予想できることは、遺伝か喘息の発作が続き、心臓に負担をかけてしまったか。



遥香は…


受け止められるだろうか。



検査を終わらせると、遥香は近藤さんに連れられて病室に戻った。


まずは、今日の卒業祝いはやめておいた方がいいのかもしれない。



実際、遥香に負担をかけるし今の状態はあまり良くない。


1本の電話を入れて、夏樹さんに断りの電話を入れておいた。



それから、遥香の病室に向かった。



「尊。」


いつも通り、笑顔で俺のことを待っていてくれた。


結果を見る限り、今の状況はかなり遥香にとって辛いはずなのに。



「遥香、無理しなくていいよ。」



「え?」



「遥香、いつから胸が苦しかったんだ?」



「…1週間くらい前から?でも、それは喘息のやつかと思って…だけど、きっと違うんだよね。」


俺は俯いた遥香の顎を上げた。


「こら。俯かないの。遥香。」


遥香の表情がかくにんできた。


その表情で、俺はすぐに気づいた。



涙目になっている遥香を見るとすぐに分かった。


遥香は、薄々自分の胸の苦しさと痛みが、発作でないことに気づいていたのかもしれない。


心配かけないように、我慢していたのかもしれない。



それか、結果を知ることが怖かったから何も言わなかったのかもしれない。



遥香の色んな気持ちを汲み取りたいのは山々だけど、ここはちゃんと遥香に言わなければいけない気がした。


遥香が不安にならないように、支えていこう。



「遥香、遥香は心臓病だった。」



遥香は、大きなため息をついた。



やっぱり。


分かっていたんだな。




遥香は、入退院を繰り返し色んな患者さんと触れ合ってきたから、病気のことが分かるようになっていた。



だから、遥香自身も自分の病気が分かっていた。




「尊…治る?」


「遥香。俺が遥香の病気を治すって言っただろ?遥香の喘息も、心臓病も治してみせる。だから、遥香も一緒に頑張ってくれるか?」


「…なんか…もういいよ。」



「え?」




「きっと…私が元気になったらいけないんだよ。幸せになったらいけないの!!」



「遥香!」



遥香を咄嗟に抱きしめていた。



そんなことを考えるなよ。



遥香は、幸せになっていいんだよ。


この世に、幸せになっちゃいけない人なんて1人もいないんだよ。



生きている限り、皆が平等に幸せになる権利を持っているんだから。



「遥香…不安な時は俺がそばにいる。だから、幸せになったらいけないとか言わないで。遥香を幸せにすることが俺の夢なんだから。遥香と一緒に幸せになりたい。」




俺は


遥香のそばにいれるだけでいい。


俺が嫌なのは…



遥香がいなくなることだよ。



心臓となると、命に直結する問題を数多く抱えて生きていかなければならない。



まだ、18歳の遥香は移植が受けられない。



あと2年は待たないとな。



「尊…どうして?私…」



「喋らなくていい。泣いていいよ。我慢するなよ。」



遥香は、張り詰められていた糸が切れたように涙をこぼしていた。



そんな遥香をただ、抱きしめることしさでしか受け止めることができなかった。



だけど…

そのことが、遥香の不安を少しでも吹き飛ばせるならそれでいい。


遥香の辛さを分かるとは言えないけど、不安を感じさせないようにすることは出来るとは思うから。