ーside遥香ー

私は、治療を行い何とか卒業式に出られるまで回復した。


回復と言っても、卒業式を終えてからもここに戻ってこないといけないんだけど。


尊が家から持ってきてくれた制服を身にまとい病室から出た。


「遥香ちゃん、卒業おめでとう。」


最初に言ってくれたのは近藤さんだった。


「制服姿、やっぱり似合うね。」


「ありがとうございます。」


私は近藤さんに笑顔を向けた。


「遥香。」


「尊!」


「卒業おめでとう。」


不意打ちにキスをされた。


「ちょっと!看護師さんみんないるじゃん!」


尊がキスをしたのは廊下を出てすぐだったからナースステーションの目の前だった。


恥ずかしいよ。


「朝からごちそうさまです。」


にこにこしている近藤さん。


「さあ、卒業式遅れるから行くよ。」


「あ、本当だ!」


携帯の時計を見ると時刻は8時だった。


「朝陽、今日の外来よろしくね。」


「任せて。遥香ちゃんの卒業式ちゃんと見守ってきな。」


「ありがとう。」


朝陽先生と分かれてから、尊と一緒に車に乗り学校へと向かった。


学校に着いて尊と分かれてから、私は教室へ入った。


「「おはよう!」」

「千尋、大翔おはよう。」

それにしても、もうしんみりとした空気。

何だかんだで高校生活が楽しかった。

担任の先生にもお世話になったからな…。

「それでは、体育館へ向かうので出席番号で並んでください。」


担任の先生に言われ皆廊下に並んだ。


それから、卒業式は無事に終わった。


「遥香!」


卒業式が終わり、私は外へ出て尊の元へ向かった。


「お疲れ様。3年間よく頑張ったな。」


尊が、頭を撫でてくれた。


「はるちゃん。」


「あ、夏樹さん!」


「卒業おめでとう。ばっちりビデオに撮ったから、お母さんとお父さんに見せるね。」


「ビデオ撮ったんですか?」


「はるちゃんの晴れ舞台だから。それにしても感動した。この後、家にこない?卒業祝いをしようって思ってるんだけど…。」


「すみません、私この後病院に帰らないといけなくて…。」


「え、大丈夫?」

「はい。」

「夏樹さんや香純さんと弘道さんの都合がよろしければ、病院でやりませんか?」


「え?」


「遥香の卒業祝い。病院でやろう?」


「でも、他の患者さんに迷惑じゃ…。」


「個室だから心配いらないよ。院長には許可出してもらえるように頼んでみる。」

「ありがとう、尊。」

「遥香のことをお祝いしたいのは俺や夏樹さんたち以外にもいるからさ。」


「え?」


「朝陽や、梓。それから近藤さんや蓮くんも。」


「蓮君…?」


私は、すっかり忘れていた。

そういえば、最近は蓮とリハビリ室で会うこともなくなった。


きっと、退院したんだろうけど。


「リハビリ頑張ってる遥香を見て背中を押されたんだって。」


「私を見て?」


「あぁ。」


「それじゃあ、私は母と父を連れて病院に向かいますね。」


「分かりました。」


それから、私も尊の車に乗った。


「尊?車動かさないの?」

ずっと、尊は真剣な表情をしていた。

なかなか車を動かさない尊を見て心配になって聞いてみた。


「遥香。」


「なに?」


「これ。」


尊から渡された正方形の小さい箱。

もしかして…

これってまさか…


尊が、私に見せるようにゆっくりと蓋を開けた。

やっぱり…


「まだ、約束にしか過ぎないけど…。」


そう言って、尊は指輪を取り出し私の左手の薬指にはめた。


「尊…これって…」


私は、嬉しくて涙が溢れ出していた。


だって、これからもずっと一緒にいられるってことだよね?



「泣くなって。」

そう言うと、尊は涙を拭ってくれた。


「卒業したら、言おうと考えていたんだ。遥香?結婚式をあげるのは医学部卒業してからにして籍を入れないか?」


「…尊?」


「俺と、一緒に生きていこう。」


それが、尊のプロポーズだった。


「よろしく…お願いします…。」


断るわけがない。


私もずっと、尊と2人で生きていきたい。


「よかった!」


尊の緊張は一気に抜けていつも通りの尊に戻った。


そう感じたのもつかの間。


視界が暗くなった。


気づいたら尊に唇を塞がれていた。

中々解放してくれない。

ここはまだ…

学校の駐車場。


「…尊!」


恥ずかしさと苦しさで、私は尊の胸を押し返した。


「ごめん。つい、嬉しくて。」

「誰かに見られてたらどうするの!?」

「俺は全然構わないよ。むしろ、見せびらかしたいくらい。」

いつもは大人のくせに、時々こういう子供っぽい一面を見せてくる。


「2人だけの秘密。」


恥ずかしくて、私はそれしか言えなかった。


「お前…その顔は反則だって。」


尊が、私を『お前』と呼ぶ時は感情が高まっている時。


身の危険を感じた私は、尊を我に帰らせた。


「尊、早く病院に戻らないと夏樹さんたちが先についちゃうよ!」


「あ、そうだったな。

遥香?卒業おめでとう。」


そう言われ頭を撫でてくれた。


「ありがとう。」


その優しさに、私は笑顔で返した。