ーside尊ー

外来で診察が終わって、医局に戻ると夏目先生が座っていた。

「夏目先生。」

「佐々木君。君に、話したいことがあって待ってたんだ。」

「話したいこと?」

「うん。とりあえず、座りなよ。」

夏目先生の、目の前にあった椅子に腰をかけた。

「君に、今度入学して来る1年生の授業をしてもらいたくて。」

「え?」

「呼吸器内科医を、ずっと探していたんだ。でも、この間君と偶然再会したでしょ?あの、トップ合格の子のお陰だな。だから、ぜひ呼吸器の授業やってもらえないかな?もちろん、こっちの方の仕事が忙しいならいいんだ。」

「教えたいのは山々なんですけど、一応遥香の主治医としてここで働いているので…。」

「毎日じゃないんだ。1年生の呼吸器の授業は月に2回だから。遥香ちゃんの診察の日と合わないようにカリキュラムを組む。それでもお願いできない?」

「…それなら、大丈夫です。」

「よかった。それじゃあ、よろしくね。」

「はい。」

「君からは何かある?」

「保健教員として、佐々木梓を雇って下さりありがとうございました。」

「あぁ。でも、どうしていきなり?」

「実は、その人は俺の妹なんです。」

「あ!だから名字が同じだったんだ。」

「はい。それで、遥香は無理をすることがあるので心配になったんです。勝手言ってすみません。でも、梓になら大学にいる時は体調を見守れると考えたんです。」

「愛が深いね。いいよ、可愛い教え子のためだから。俺も、遥香さんのことちゃんと見守るから。医者として先生として。」

「心強いです。」

「こっちも、いつでも発作の対応ができるようにしておくから。皆で、遥香さんのことを守っていきます。」

「はい。よろしくお願いします。俺も、一緒にいれる時は体調のほう診ていきます。」

「分かった。それじゃあ、帰るね。」

「はい。ありがとうございました。」

「こちらこそ。」

夏目先生とわかれてから、患者さんのカルテの整理をしていった。

あ、明日は遥香の検診の日だったな。

最近、発作も多くなってきたからきっと悪化してるだろうな…。

何としてでも、入院はさせないようにしないと。

結果次第では、入院せざる負えなくなる。

それだけは避けたい。
もうすぐ卒業式だもんな…。

卒業式だけは出してあげたい。

今日は早めに帰って、遥香に無理させないように休ませるか。

デスクに向かい、残りの仕事を終わらせた。


家に帰ると、鍵があいていた。

いつもは、閉まっているはずなのに。

荷物はあるけど、いつも引っ掛けてある制服がどこにも見当たらない。

「遥香?」

電気の明かりが1つもついていない。


「どこいったんだよ…」

どこの部屋を探しても、遥香の姿がない。

電話をかけても、留守番サービスになり携帯が繋がらない。

今日は学校に行くって言ってたよな。
千尋ちゃんなら知ってるか?

「…千尋ちゃん?」

「はい?」

「今、遥香と一緒?」

「いや、16時くらいに分かれました。」

「…分かった。ありがとう!」

「え!ちょっと、何かあったんですか?」

「遥香が、いなくなった。」

「え!?」

「また後でかけ直す。」

「あ、私も探します!」

「もう遅いから、朝陽と一緒にお願い。」

「わかりました!」

電話を切ってから、いそいで外に出た。