ーside遥香ー

家に帰宅してすぐに寝たら、昨日より熱っぽさは多少は良くなっていた。

だけど、やっぱり体の重さはあまり変わらない。

私は尊が起きる前に体温を測る。

喘息の方は良くなったものの、低血圧だから朝は体が怠い。

しばらくすると体温計が鳴った。

37.5

少し高めの数値。

でも、元々の平熱が高いから大丈夫かな。

一応、尊に見せるか。

私は、とりあえずリビングに向かい朝ご飯の準備を始めた。

「おはよう。」

「おはよう…」

やばい、変に動揺しちゃった。
どっちにしろ、体温の報告はちゃんと体温計とセットで尊にしないといけないから誤魔化せないけど。

「ちょっと、温かくないか?」

私の体に触れた尊が異変を感じた。

「あー、尊が昨日泣かすからだよ。それで体温上がったの。」

「遥香。ちょっとこっち見て。」

尊から背を向けていたはずなのに、体を尊に向かい合うように肩を掴まれた。

「やっぱり。目が充血してる。怠いだろ?」

「…。」
私は頷くしかなかった。
だって、尊には嘘はつけないから。

「我慢するなよ。ちょっと診察するからそこのソファーに座って。」

私はソファーにもたれかかるように座った。

「ちょっと血圧測るよ?」

「うん。」

「……朝たがらっていうのもあるんだろうけどそれにしても、今日は血圧低いな…。」

80だと昨日よりも少ない。

「点滴入れるけどいいか?」

「はい。」

「遥香、力抜いて。大丈夫、すぐ楽になるから。お昼まで様子を見て、熱が上がらなかったら学校に行こう。俺、今日は夜勤だからお昼頃学校に送っていけるから。明日は朝までいないけど、何かあったらすぐに連絡。まぁ、連絡と言っても遥香は体調悪くても言わないから、今日は助っ人を家に呼んでおいた。」

助っ人?
私の行動をすべて読んでいる尊には、やっぱりかなわない。

「とりあえず、俺のベッドで寝てな。部屋だと様子が分からないから。」

尊にそう言われ、ソファーから立ち上がったけど、立ちくらみがひどくて立てずに尊が受け止めてくれた。

「無理そうだな。ちょっと持ち上げるぞ。」

私を姫抱きにしてからソファーへ向かった。

私は、尊にベッドへ運ばれてから寝たり起きたり浅い眠りを繰り返していた。

ずっとそばにいてくれる尊の温もりが温かくて安心して眠れる。

実は、最近は発作が怖くて今までちゃんと眠れなかった。

だから、本当は1人で眠ることが怖い。

でも、そんなことを尊には言えない。

だって、さすがに1人で寝れないって中々重い女だよね。

お昼になったけど、体はあまりよくならなかった。

「んー…」

尊は私から抜いた体温計を見て項垂れている。

「そんなに高いの?」

体は怠いけどあまり熱があるようには思えない。

「38.5だよ?」

聞かなきゃ良かった…。

「熱をあまり感じないのは解熱剤も点滴で入れてるからだよ。本当は俺も休んで様子診たいけど、今日は会議があるから無理そうなんだ。ごめんな。でも、辛かったらちゃんと言えよ?」

「無理しないから大丈夫。」

「遥香の『大丈夫』はあまり信用できないんだよなー。」

「もう!尊は、私のことより大事な会議のことだけ考えてればいいからね!」

「おい。会議より遥香だ。んー、やっぱり俺、病院に電話するよ。」

「あんた、遥香ちゃんのこと困らせてるんじゃないよ!」

突然梓さんの声がした。

「遥香ちゃん、ごめんね。今日は私がついてるから。」

「梓先生…と、輝先生!?」

輝(ひかる)先生は、呼吸器内科にいる先生。
主治医は尊だけど、時々私の治療もしてくれる。
「はは。驚いた?実は、つい最近梓と結婚することになったんだ。」

いつからそんな関係だったんだろう。
輝先生って尊と仲のいい医者だよね?

「…」

私はしばらくぼーっとしていると、

「遥香、驚きすぎ。俺が紹介したんだ。お互い出会いがなかったからな。兄としての役目ってやつだよ。」

「驚かせてごめんね。でも、これからは輝先生もいるから、遥香ちゃん逃げられないわね。」

嬉しそうに笑いながら言う梓先生。
私が我慢しないように、見張るつもりだ。

「尊。ここは俺に任せて。会議行けよ。」

「あぁ。任せた輝。何かあったらすぐに言ってくれ。」

「任せて。」

「遥香、我慢してても輝は気づくからな?ちゃんと体調を伝えるんだよ?」

「分かってる。」

尊は、スーツに着替えて私を抱きしめた。

「すぐに帰ってくるから。待っててな。」

「尊帰ってくるの次の日のお昼でしょ?私は学校に行くもん。」

3日連続でなんか休めないよ。

「体調がよくなったらな。それじゃあ、行ってきます。」

「行ってらっしゃい。」

私は笑顔で尊を送り出した。

「梓先生?」

「ん?」

尊が家を出てから気になっていたことを聞いた。

「今日学校は?」

「今日は、もう1人の先生に頼んできたの。」

しまった。
私のせいだよね…。

「ごめんなさい。」

「何で謝ってるの!?私は、大切な妹のためなら学校くらい休んだっていいわよ。遥香はもう家族同然なんだから。」

「梓先生。」

「だから、今は余計なことを考えず体を治すことだけを考えて。」

梓先生はそう言って私を寝かせてくれた。

「遥香ちゃん。俺も尊や梓と同じくらい遥香ちゃんのこと大切に思ってるから。遠慮しないでなんでも言ってね。」

「輝先生…。」

あれ?
そういえば、輝先生は会議はいいのかな…?

「輝先生?会議の方は…?」

「俺は、小児科で関係のない会議だから行ってないだけだよ。それに、今日は休みなんだ。」

「そっか」

「もう。心配しすぎ。遥香ちゃんさ、もっと頼っていいんだよ?みんな遥香ちゃんのこと大事に思ってるんだから。」

「そうよ。我慢された方が私は落ち込むよ?」

「…ありがとう。」

「やっと笑ってくれた。やっぱり遥香ちゃんの笑顔はいいね。私も元気出る。」

「遥香ちゃん、お昼は食べたか?」

「食べてないです。」

「少しでも食べて欲しいんだけどいい?」

「…うん。」

「あまり食欲ない?」

「はい。」

「ちょっとごめんな。」

輝先生は私を持ち上げた。

びっくりして私は足をばたつかせた。

「下ろしてください!」

「遥香ちゃん。ちょっと調べるだけだから。大丈夫よ。」

梓先生の言葉を信じて、輝先生に身を任せた。

「ちょっと、目をつぶっていて。」

輝先生は、私を抱えたまま体重計に乗ったみたいだ。
私が、体重を測られることが嫌なのを知っていた。

それからしばらくして、私はベッドへ戻った。