「あ、そう言えば、始めまして」

「そうだね、はじめまして」


ぺこりと頭を下げると、今まで座っていた先輩も立ってぺこりと頭を下げた。

見上げたら、ちょっと高くて驚いた。

多分、顔立ちから低身長だと思い込んでいた。


「私、一年の佳月 小春って言います」

「二年の伊東 彰です」

「ふっ、なんで先輩まで敬語なんですか」

「なんか…佳月のが伝染った」


静かな美術室に、私と先輩の笑い声が響いた。

先輩は少し変わった人なのかもしれない。


「先輩ってちょっと変…」

「え、」

「あ」

「そう言う佳月もだいぶだと思うよ?」


また首を傾げる先輩。

それ癖なんですか?


「失礼ですよ」

「だって、かなり心の声漏れてるし」


いきなり核心を突かれた。


「それはっ……そうなんですけど…」

「…別にいいよ、佳月はなんか、気を遣わなくていいね」

「……」

「?…どうかした?」


また首を傾げる先輩に、何も言えなくなってしまった。

だって、そんな風に、長所みたいに言ってもらったことなんて無かったから。


ちょっとだけ、泣きそうになった。


「先輩……私、何でも言っちゃうんです」

「…うん」

「ありがとうございます……初めてこの癖、好きになれそうです」


精一杯の笑顔で笑った。

感謝が伝わればいい。


「……先輩」

「ん?」

「明日、またここに来てもいいですか?」


恐る恐る、聞いてみた。

気がつけば2回目のお願いだった。


見上げたら、今日何度目かの、真綿みたいな笑顔が私を見下ろしていた。


「別にいいよ、何もないけど」

「ありがとうございますっ!いいんですよ、何もなくて」


そんな喜ぶことか?と、先輩がまた笑う。

それでいいんです。

私は先輩に会いに来るんだから。


「たまに先生が来るぐらいだよ」

「あれ、そう言えば他に部員とかいないんですか?」

「あぁ…うん、まぁね」


先輩は初めて目を逸らした。

困ったように眉を下げるから、聞いちゃいけないんだなと察した。


「そうですか……じゃあ、私はこれで……って、あ、案内してもらうんでしたね」

「そうだったね」

「すっかり忘れてました」


ふふふと笑うと、先輩も笑った。



本人たちだけが楽しい空間ってあるけど、たぶん、こういうことを言うんだと思った。

……でも、それがいい。

先輩の隣はとても落ち着く。

たぶん、初めて会ったこの日のうちに、好きになっていた。