楽しかった光はあっという間に消えてしまった。
博多駅の桜のイルミネーション、スマホの充電が切れていて
取れなかった。
過ぎ去る人々の好きな音楽や小説、言葉を
何一つ知れないままただただ無常に時間は過ぎていく。
いくらネットや現実で人と話しても、結局は分かり合えないものだ。
あの赤いミニのスカートの、黒髪のシニヨンの女の子は
どんな彼氏と待ち合わせしているんだろう。
私は実家にいる猫に、長旅の中であえない未練を爆発させながら
幸せそうなシニヨンの彼女に思いをはせた。
彼女は黄色いアイスクリームを美味そうに頬張っていた。
たぶん、プリン味だろう。
しかし、この世の理不尽なところは何人もの女性をいいかげんにもてあそぶ
ゲスの極みのような男がいる一方で、恋人ができないがあまりに
恋慕をこじらせてラブドールや風俗でしか、女性と触れ合えないボーイもいるという
悲劇が深刻である。
恋愛格差は、男女の不信感を増徴させ、今日も不幸な男性が
ヤケ酒で寿命と体力をすり減らしているのだろう。
「こんなに仕事をがんばって、とりあえず日本のためにがんばってみたのに、なんでオレには恋人ができないのだろう。誰でもいい、オレを愛してくれ。そのためなら君が福岡、大阪、三重、広島、岩手、どこに住んでようがマンションの部屋借りて住むはずなのに」
楽しい光は、彼の心の中でだけでしか降り注がなかった。
彼は、この世を呪った。しかし、好きな女性声優さんや本気でほれたロックバンドのことを
思うと中途半端に世界を愛してしまうのだった。
「この世を本気で憎めたら楽なのに、あの子がかわいいから、そして偉大な邦ロックのせいで
ロックンロールは鳴り止まない」
四畳半の、漫画20冊とカップめん2週間分くらいしかない部屋が彼の部屋。
万年、誰も尋ねてこない寂しい部屋で、彼はひとりよがりな愛を地球全体にぶちまけた。
白いその液体は、むなしく畳に吸い込まれていった。
どんな女の子に命を残すわけでもなく、ただただむなしく。

ところかわって、手首を切り続ける少女がいた。
彼女の名はブレイキン・アクアマリン。
またの名を壊れかけた人魚と呼ぶ。
しかし、呼びづらいので彼女は自分をミリイと名乗っていた。
ミリイは、港町に生まれた。
しかし、幼いころに家庭不和が深刻になり、女手ひとつで育てられた。
ボロボロな服を着たミリイは常にいじめられていた.
小・中・高・すべてでいじめられ、友達は3人くらいしかできなかった。
いつのまにか、メールアドレスもつながらなくなり、
ついに彼女は孤独になってしまった。
夜更けの公園でシーソーに座りながら、ミリイは涙をポロポロ流した。
大地に、ミリイの涙はアクアマリンの宝石のように溶け込んで、
地中へその宝石は残った。
ミリイはしゃがみこんで、地面を叩いた。
手からは赤い血がにじみ出てきてしまっていた。
すると、自転車を漕いでいた通りすがりの青年が
ミリイの悲痛な甲高い泣き声につられ、
あまりに驚いて、転びながら痛む体を引きづりながら、
青年はミリイに声をかけた。
「どうして、そんなに悲しそうなんだ?」
「泡になって消えてしまいたいの」
「かんたんに消えるなんてコトバを言ったらいけないよ。どげん辛い思いしたらば言うとか?」
「やけん、今までの人生ボロボロだったっちゃ。うまかな食べもん食べても
ちっとも満たされないけん」」
「ばってん、悲しんでても何も始まらないけん」
「わかっとるっちゃ」
「少しずつでいいから、心を開いてくれよ、君の名前は?」
「ミリイです」
「安心してごらん、これから君の心はぼくのものさ」
「すいとーよ、好いとーよ」
夜の公園に美しい愛の噴水が咲き乱れた。
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