『そんなにお兄ちゃんが大事か?』
理事長は、ふかふかの椅子に深く腰を落として座っていた。
丁度、窓から射す光で、顔が何も見えなくて睨みつけるのが精いっぱいだった。
でも理事長は利香にも利香の兄にも笑ったことはない。
基本、誰とでも気さくに話せ、嫌いな人なんてそうそう居ない利香でさえ思う。
いや、利香だからこそ思うはずだ。
理事長なんて大っきらい、だと。
『大事に決まってるじゃない。私が勝ったらお兄ちゃんは自由にさせて貰いますから』
『勝負とういうのか。この理事長である私と』
『当たり前じゃない。お兄ちゃんを守れるのは私だけだもん』
『好きにすればいいが――秘密は守れ、いいな』
『当たり前でしょ』
思いっきりあっかんべーをしたが、理事長の表情は最後まで見えなかった。
見たくもなかったのかもしれない。
「おっと、ぼーっとしてたら遅刻しちゃう。えーっと」
利香が近道をしようと中庭を横切った時だった。



