三月ウサギは恋をする!?

 確かそんな噂もあったなと利香は思い出す。火の無い所に煙は出ない。


近衛が、何も思わない人を雪のスリップが危ない日に飛び出して探すだろうか。

雪で凍てつく川を飛び込んで、窓を割って助けるだろうか。近衛はきっと、自分ですら気づいていない。気づく前に終わってしまった思いを燻らせている。利香を見る目と菫を慈しむ目は全然違ったからだ。

「優しすぎるのも時に辛いものですね」

 綾小路が優しく利香の髪を撫でると、利香は初めて下を向いた。上ばかり、青空ばかり望んでいた為に、地面の石に気づかなかった。菫もこの整備されていない道を車椅子で走って来たのだ。見上げたばかりの自分は、地面に転がる石を見ないふりしてきたのだろう。

近衛は違う。それ故に、蒼い空に手を伸ばしてもきっと誰も笑ったりしない。彼なら確実に出来るのだと知っている。

利香は近衛と菫の後を追って走り出した。恋とは苦しくてややこしくて、嫌になると。今ならば菫の気持ちが分かってしまう。それを振り払うかのように、利香も菫の車椅子を押した。