菫の落ち着いた声でと笑顔で野球部のレギュラーたちも安堵するが、本当は菫も足の上に置いた拳が震えていた。歩夢と合流した利香はすぐに整骨院へ連絡を入れ、午後一で診察をお願いした。
「近衛先輩、レオ先輩が保険諸取りに行ってくれてるから、先に車に向かってって」
背中の裾を引っ張ると、痛みを見せずに振り返る。
「すまない。助かる」
「すっごく腕のいい先生だから安心してね」
「ああ。――ちょっと」
近衛は利香が引っ張った服の袖を外すと、部室の前で手を振っていた菫の方へ向かう。
「靴箱まで押す」
「いいよ。肩が痛いのばらすわよ? 早く行って」
やんわりと菫が断るのを、近衛は表情を変えずに近づくと車椅子を後ろから押しだす。
「どんなことであれ、嘘を吐かせて悪いな」
「謝らないでいいから」
「明日は必ず優勝する」
「当たり前よ」
近衛は利香が後ろに居るにも関わらず、菫を押すとそのまま置いて行く。
『菫と近衛は、甲子園で優勝するまで一時的に別れているだけ』



