自由奔放でのらりくらりしている歩夢にはこの学園はきっと、窮屈で自由もなく息苦しいだけだったろう。そんな彼がここに入学した理由を考えたら、胸ほっこり温かくなっていく。
「だがなー。俺はもうなんてーの? お前の保護者気分だったから、あの三年の近衛はなー」
「な、何?」
「女に鈍感そうだし結婚まで手を繋ぐのもしないような、堅くて楽しくなさそうな奴だけどなー」
「ちょっと! なんでそんな近衛先輩の話なの! 私はこの学校を乗っ取る話をね! 聞いてる!?」
「あいつ、キスとか下手そう。大丈夫かな」
「き!? 歩夢君、私今、泣いてたの! そんな無神経な話止めてよ」
真っ赤になりながら利香が歩夢の口を両手で押さえる。歩夢はそれを見て倒れ込むように笑い、利香も釣られて倒れ込んだ。
「でも、お前はそれでいいんだって。人を好きになるって気持ちが良いだけじゃないって分かったろ?」
気持ちが良いという感情には首を傾げたが、利香は頷く。いつの間にか、憧れていた人の隣に居たいと願う。これが恋というものなのなら、今の利香には苦しすぎた。手を伸ばしても、近衛のようになれない。近づけない。利香の心の中では、どうやって兄を蹴落とし自分が後継者として立場を固められるか。その黒い裂く力しか渦巻いていなかった。
だから、近衛の真っ直ぐ空を見上げる視界の中に、兎がいるなんて、あまりにも世界が違いすぎて。苦しくて泣けたのだ。
「恋愛って面倒くさいんだね。だから歩夢君は真剣にならないで手ごろで簡単に遊ぶの?」



