歩夢が頭をポリポリと掻きながら、踏んだ手を強引に掴み起ちあがらせた。まだ眼鏡を見つけていない輝夜は一瞬うろたえたが、すぐに顔を引き締めた。
「学園の名誉を盾に脅されてるのは、――お前だろ」
「あ、ゆむ」
「痛かった? ――舐めてやるよ」
「うっ ひぇっ」
強引に掴まれた手の甲を、歩夢は躊躇なく舐める。眼鏡で視界がぼやけている輝夜の目をじっと食らいつく様に見つめながら。
「お、お前、気持ち悪いぞ」
「そろそろ、ヤキモチとか妬けよ、ばーか」
「ばっ 月華学園の生徒会長、兎輝 輝夜に馬鹿とはなんだ! 無礼者!」
「うっせ。俺が色んな女の子と付き合ったり二股三股しても、お前平気なの?」
「――っ。な、舐めるなっ。お、お前のその貞操の無さには呆れている!」
輝夜の色気の無い返答に、歩夢が大袈裟に溜息を吐いた。
「可哀想に。お前に尽して従う千昌ちゃんは、好きな人と寄り添う事も出来ず、俺もお前をどうにかいしようも、本音を言ってもらえねえし」
「歩夢」
「素直じゃねえ可愛くない輝夜よりも、健気に頑張る利香の方が一生懸命で可愛いよな。――胸ないけど」
「歩夢!」
「俺、利香でもいっかな。利香にすっか」
「歩夢っ」
掴まれていた手を、反対に掴み返し捩じると、壁に抑えつける。痴漢などに合ったときになどに咄嗟に相手の力を流す護身術を、輝夜はあっさりと歩夢にかける。顔を壁に強く押し付けられた歩夢は、へらへらと笑っている。



