三月ウサギは恋をする!?


椅子に座り、太ももに肘を置き、顔を手で支えながら近衛の顔を見る。
帽子を指先で払ってソファの下に落とすと、無邪気に眠る近衛の寝顔が見えた。

「お兄ちゃんを救う事は、無理な気もするけど諦めたくない。でも部活が成功すればするほど、お兄ちゃんの為にしていることの効果が微々たるものだって思い知らされる。千里の道も一歩より。分かってるけど――近衛先輩の様に私は石の上に何年も座れなさそう」


 眠っている近衛に話しかけながらも、それは自分の心と会話していた。利香は、誰かに励まされたいのだろう。だが、自分が何をしようとしているのか、その全貌を汲み取っているのは歩夢だけ。近衛に全て打ち明けられないのに、近衛に大丈夫だと言って欲しいと思うのは自分勝手だった。
今は、この一人で頑張る聖人君子の為に静かな眠りを提供することだけに努めよう。もっと近衛の事を知り、そのエネルギーの源を知りたいと思った。静かな二人だけの時間。その時間は確かに無駄ではなかった。何かが静かに変わろうとする優しい時間。

「すまない。世話をかけた」