改める気はないらしい。その様子に千昌は苦笑すると、遠ざかるのを確認してから真っ赤になって慌てている美音を見た。
「小林は侮れない男です。喰えないと言うか今まで女に興味なさそうだったのに、こんな風に急に手を出すとは」
「手は出してないよ。それに、部活同士の交流会をしたいだけかもしれないし、そっちがメインなんじゃないかな」
「――じゃあ、交流会承諾するつもりですか?」
千昌の声が急に冷たくなるのを、美音は怖いと思いつつも頷く。
「ウチの部員たちに聞いてみなきゃだけど、色んな角度からの刺激って大事だと思うよ」
「私よりも――小林の方が障害も無く周りの目を気にせず恋人として周りに紹介できますものね」
「千昌ちゃん?」
「私は、騎士で恋愛感情とは別として生徒会長を守ろうとしてるだけで、私の本当の気持ちは言えないけれど――だけど、いや、だから? 貴方を止める権利はないし、だから、好きにすればいいんじゃないかなって思うけど」
「ち、千昌ちゃん、言ってることが滅茶苦茶だよ?」
誰も居ない廊下で、千昌はじりじろと美音と間合いを詰めていく。美音はその不運な空気に気づいた時は、もう千昌に壁に追い詰められた後だった。牛乳瓶の底の様な分厚い眼鏡の奥の獰猛な瞳が、美音を見つめている。その眼鏡は、度が入っていない伊達眼鏡だと美音は知っている。自分より少し背の高い千昌を見ながら、美音は息を飲む。
「滅茶苦茶なのは、――自分勝手な思いのせいです。美音を縛りつけたくないのに、縛りつけてしまう。こんな自分が――自分で一番嫌いだ」
「千昌ちゃんっ」
「待っててというのは、お――いや、私の勝手な願いだけれど、美音の回りに男が現れて良い気はしない」
「や、ヤキモチ妬いてくれてるの?」
美音が驚いて身を乗り出すと、千昌は覚悟を決めて頷く。
「小林みたいな良い奴なら――と思ったけどやっぱ駄目だ。美音はたとえどっかの貴族でも渡せない」
唇を尖らせる千昌に、美音は嬉しくて目を滲ませた。
「自分勝手すぎるよ。私じゃなくて使命を優先してるのに」
「ごめんなさい。でも美音が誰かのモノになるのは耐えられない」
「うん。……うん。私はもうずっと千昌ちゃんのモノだよ」
美音は千昌の眼鏡を外すと、千昌の瞼に口づけを落とす。
「美音」
「生徒会長の輝夜くんは、私よりも危なっかしくて私より千昌ちゃんを大切にしてくれてる?」
泣きだしそうな震える声で美音が聞くと、千昌は苦笑するだけだった。
「輝夜は、美音にも言えないような秘密を抱えてて、それが俺には切なくて堪らないんだ」



