「誰の注意も聞かないですからね、あの人」
「でも、彼が羨ましい。学生時代はあれぐらい縛られないで生きる方が気持ちが良い。大人になったら、モラトリアムなんて許されない。現実が大きな壁になる」
「モラトリアム」
大人になる為の猶予期間と聞いて、頭を過ったのは生徒会長である輝夜のことだった。
「生きていくために必要、欲しい金額、実力が追いつかない夢、努力だけでは立ち塞がってしまう時もある。でも――逃げられないのは、自分が生きる世界だからだよ」
「???」
先生が良いことを言ってくれようとしているのだが、利香は話半分で飲み放題のドリンクを選んでいて慌てて先生を見る。
何と答えていいのか悩んでいると、先生がふんわりと笑った。
学園内先生イケメンランキング一位と謳われる綾小路の笑顔は、ドリンクよりも、皆が頼んでいるパフェよりも甘かった。
「良いんです。今、意味がわかったらいけないんですよ」



