再びあの洗脳されていた子供時代を思い出して彼は胸を痛めたが、彼はその事の再会で救われた。
音楽を愛しているその子は、――誰よりも美しかった。
忘れたい、いや、彼の中ではもうなくなってしまった過去。
なので、彼女にあの日、助けて貰ったことを、あの時の御礼を告げることはしたくない。
ただ、彼女を時折目で追うだけで良かったのだ。
「ピアノで勝負なんて、先生はできません。ピアノは大切な、自分の心を写す友達なので」
「だからバイオリン? 先生ってバイオリンの経験、御有りなの?」
勝負をしようと睨みあっていた綾小路とみなもだったが、突然竹鶏が演技臭く音楽室を飛び出したので気がそれてしまっていた。
その白けた雰囲気の中、綾小路が先に切り出したのだ。
「高価な楽器は触ったこともありませんが、頑張りますよ?」
勝負などどうでもいいのだからと先生の笑顔が言っている。



