千昌が嘘をつき続ける間は、美音も嘘を塗る。


最初の恋愛派遣部の仕事は、達成ならず。

けれど、人の心が分からない利香には大きな収穫のある勝負だった。




みなもは朝、憂いを帯びた瞳で長い髪を背中に流しながら廊下を歩いていた。
先日の雨が嘘のように、晴れ渡る五月の真っ青な空を窓から見上げて。

その美しい憂いのある横顔が、ただの寝不足からくるものだとは利香以外は気づかないだろう。



みなもがのんびりと朝部の音楽室へ向かっていると、一人窓辺で佇む綾小路先生がいた。


「ああ。おはよう、軍願寺さん」

「おはようございます。小鳥の声が美しい朝ですね」

先に先生から穏やかな笑顔で挨拶されたので、みなもも反射的に笑顔になってしまった。人見知りで筋肉マニアのみなもにとっては珍しいことだ。

「うちの音楽部のコーラスも、小鳥よりも美しいよ」

「へー。そうなんですね。でも歌はあまり興味無いのです。ふふ」