途中、ランニングをしている野球部の何人かにぶつかりそうになったが、それを擦りぬけて利香は誰も居ない場所を探した。
「誰だ! 廊下を逆走するのは! 危ないじゃないかっ」
近衛の怒鳴り声に二人が振り返ると、近衛も二人の姿に眉を潜めていた。
「はあ、はあ、兎 輝、ちゃっ 私、も、無理」
体力がない美音は粋を切らしながら倒れ込むように中庭のベンチに座り込んだ。
雨が降っていてベンチは濡れていたが、美音は油絵用のビニール製のスモッグを着ていたので、気にもせずに座る。
「美音先輩は、千昌さんが好きなんですか?」
直球な言葉に、美音は視線を泳がせ頬を赤めた。
「好き、というか、なんというか、――でも千昌ちゃんを思って私はいつも油絵を描いていたよ。隠すために嘘の色を重ねながら」
「じゃあ、美音先輩がスランプなのは、フィアンセって話を聞いてしまったから?」
利香の言葉に、美音は勝負に負けたのだからと観念して、深く頷いた。



