「ううん。私の負けだよ」
美音は目隠しを外すと、静かにそう笑う。
床に落ちて大きく欠けてしまった蝋は、半分も出来上がっていなかったが、出来ていた場所は見本と一寸も違わない精密さだった。だが、殆ど欠けてしまった。
一方、利香は精密さは無いけれど、全体の形は完成している。
途中になっていた表の削りの方は、僅かしかできていなかったが此方も精密だった。
「動揺したのは、歩夢君のせいではないよ。私が聞きたくて聞けなかった名前だよ」
皆を諭すように言うと、利香に優しく問う。
「貴方のお兄さんと千昌さんが婚約しているって話は本当?」
利香はその言葉に、本能的に立ち上がり美音の手を取ると、廊下へ走り出していた。
「利香!」
「部長!」
二人を叫び、止めようとするが利香は元陸上部の筋力で、美音を引きずるように走った。



