「これ、」
ケーキのろうそくを抜こうと手を伸ばした私の前に、澪君が小さな縦長の白い箱を取り出した。
それには青いリボンがかかっていた。
いつか、私が好きだと言った色のリボンは、ライトの光を浴びててらてらと輝いている。
白い箱に印字された金色の文字は、かの有名なアクセサリーブランドの名を刻んでいた。
私はちょっぴり、箱を受け取る指先が震えた。
「紘那に…誕生日プレゼント」
満開の照れ笑いを浮かべる澪君。
彼は「開けてみてよ」と私を促した。
するすると青のリボンを、神経質に解く。
リボンを綺麗にまとめて、テーブルの端に置くと、そっと箱を開いた。
「わぁ、これ…!」
中にはキラキラと光を反射して輝く、銀色の腕時計が綺麗に収められていた。
華奢なフォルムと、細い針が高級感を際立てているそれは、よく雑誌に紹介されている限定デザインだった。
私は時計を手に取ろうとして、やめた。
澪君を見上げる。
「これ、高いやつ……私なんかにはもったいないよ」
このとき、私は相当素っ頓狂な顔をしていたに違いない。
だって、こんな高級な時計を手に取るなんて初めてで、なんだかドキドキさえしてしまう。
田舎者の私にとっては無理もないリアクションだろう。
「これが、1番紘那に似合いそうだったんだもん。」
澪君はそう言いながら右手を差し出す。
「貸して。…つけてあげる」
澪君に箱を手渡すと、彼はゆっくりと箱から時計を取り出し、私の左手首に巻いた。
ひんやりとした金属特有の冷たさが気持ちいい。
「うん、似合ってる。」
澪君が満足気に微笑むのを見て、私はまた照れてしまう。
こんな幸せ、独り占めしていいのだろうかと、不安になる。
不安になるほど、幸せで、あったかくて、優しくて、心地いい。
澪君との恋は、そんな恋だ。
「ありがとう」
私は柔らかく微笑んだ。
ふわふわとした甘い時間が私たち二人の間を流れた。
「いーえっ」と笑う彼は、いつのまにかケーキナイフを手に握っていて、「クリーム溶けてる」と愚痴をこぼしながら、丁寧に切り分けてくれた。
ケーキはとても甘かった。

