「ひゃっ!!」
私は思わず、いくまるを半ば突き飛ばすようにして離れた。
じわじわと目に涙がこみ上げてくる。
「な、何するの」
力なく、涙声で言った私の言葉は、静かな廊下によく響いた。
「いいよ、別に好きにならなくても。今は。」
いくまるは顔を上げると、私を見つめた。
「俺が絶対、紘那を振り向かせる。…あんなやつにとられてたまるか。」
いくまるはそれだけ言い残すと、その場から逃げるようにして立ち去った。
最悪。
袖で自分の口を拭う。
私は澪君の彼女なのに。
避けられなかった自分もムカつく。
涙が一筋、私の頬を流れていった。
それを筆頭に、涙は次々と零れ落ちる。
すんすんと鼻をすすりながら私は廊下を歩いた。

