「んじゃ、帰りますか!」
蒼君の号令で、Shootingのメンバーはそれぞれカバンを持って立ち上がる。
それからメガネやらマスクやらで顔を隠し、ゆったりとした足取りで玄関に向かい出す。
「紘那ちゃん紘那ちゃん」
後ろの方をちょこちょことついて歩いていた私は、メガネ姿の春翔君に手招きされた。
春翔君に近づくと、彼は私の耳元でこそこそ囁く。
「澪ちゃん、めちゃくちゃ可愛く見えるけど、意外と積極的で猛獣みたいなところあんねん。紘那ちゃん、気をつけたほうがええで。」
それから、顔をにやつかせながら私に手を振ってくれた。
3人が帰ってしまうと、澪君の家は驚くほど静まり返っていた。
さっきまでの大騒ぎがまるで嘘だったみたい。
さっきのこともあって、ちょっと居心地の悪い澪君との2人きりに、私は戸惑いを隠せなかった。というよりはむしろ、私の中である葛藤が繰り広げられていただけなのかもしれない。
今、私の好きを伝えるかどうか。
澪君は今日じゃなくていいと言っていた。
初めはなーちゃんに相談してから返事をしよう。そう思っていた。
でも…。
なーちゃんが賛成しようが反対しようが、私はきっと、澪君と付き合うことを選ぶだろう。
それに、「好き」を言うなら直接がいい。
今日を逃したら、次にいつ会えるかもわからない。
東京と群馬。
24歳と17歳。
この距離と差は、あまりに大きすぎる。
澪君はリビングでソファに腰掛けていた。
ソファの上で胡座をして、再びゲームの画面を見つめている。
言うなら今だ。
今しかない。

