三歳年上のあなたと出会ったのは私が四歳の時だった。母親の友達が家に遊びに来た時にあなたに初めて会った。お兄さんは私の家に来る度に一緒にあ遊んでくれて、大好きだった。

だけどお兄さんが中学生になると家には来なくなった。密かに抱いていた恋心。想いを伝えられる事なく私の初恋は終った。

会わなくなって十五年が経ったある日。付き合っていた彼氏に浮気をされて、大喧嘩をして別れを告げた。そんな帰り道、立ち寄ったbarであなたとの再会をした。

「もしかして晴(はる)兄ちゃん?」

「もしかして夏海(なつみ)か?」

まさか初恋の晴兄ちゃんにこんな所で再会をするとは思ってもいなかった。

懐かしさで色々な話をしてお酒も進み、さっき彼氏と別れた事も話をした。晴兄ちゃんはあの頃の面影を残したまま大人の男性になっていて、あの頃に抱いた恋心が蘇り、私は酔っていた事もありあの頃に言えなかった想いを告げた。

「私ね、晴兄ちゃんの事が好きだったんだ、私の初恋。もう何年も前の事だけど、ずっと気持ちが言えなかったし今なら言えるから暴露しました」

「俺が初恋だったのか……じゃあ俺もついでに暴露するけど、俺も夏海が初恋だった。夏海の家に行かなくなったのは思春期とかもあって、好きだったから顔を見ると恥ずかしくてさ、まだ夏海は小学生だったしな。何だか懐かしいな……」

晴兄ちゃんの暴露を聞いて、お互いが好きだった事を知った。私達はbarを出て無言のまま駅まで歩く。すると急に立ち止まった晴兄ちゃんは私を見て言った。

「俺達の初恋を実らせちゃうか?」

「えっ……」

そう言われて私は晴兄ちゃんに唇を奪われた。お酒を飲んでるからなのか、晴兄ちゃんのキスに酔いしれているのかわからなかったけど、そのキスは全然嫌じゃなく、気がつけば私もキスに夢中になっていた。この日から私達は付き合うようになり、仕事が早く終った日や、休日になると晴は私の部屋に来たり泊まったりしていた。

優しくて、私を抱きしめる温もりも、私の頭を撫でる大きな手も、私の名前を呼ぶ声も、全部が愛しくて大好きだった。帰り際にキスをして笑顔で私の部屋から帰って行った後は、いつも晴の残り香が部屋に残っていた。

付き合って半年が経ったある日、仕事が早く終わった晴は私の部屋に来て、夕食を一緒に食べた後は愛し合った。

シャワーをお互いに浴びて晴がスーツに着替えて帰る用意をする。でも何故だか今日は離れたくなくて晴を後から抱きしめた。

「今日は泊まっていけば……」 

ギュッと抱きしめた腕に力を込めた。

「夏海は甘えん坊だな?そんな事をされたら帰れなくなるだろ」

そう言って晴は私にキスをする。だけど唇が離れるとニッコリと笑っていつもの笑顔で私の頭を撫でて言う。

「泊まって行きたいけど明日は朝早くから日帰り出張だからまた今から会社に戻らなくちゃいけないんだ。どうしても夏海に会いたくて仕事を残して来てしまったからさ。また明日の夜にくるから料理作って待ってて?」

「わかった」

「いい子だ、じゃあ明日な」

そう言って晴は私の部屋を出て会社に戻っていった。また残り香を残してーーー

だが次の日、晴が私の部屋に来る事はなかった。晴が朝一に乗った電車が脱線事故を起こし、一車両に乗っていた晴は病院に運ばれたが死亡した。お昼に晴のお母さんから連絡が来て、晴が脱線事故で亡くなった事を知った。私は信じられなかった。会社を早退して病院に向かうと、晴は白い布で顔を隠されて寝ていた。

「晴……今日は帰りに私の部屋に来てご飯を食べるって約束したよね……どうしてっ、晴っ」

私は涙が止まらなかった。彼の体を抱きしめると、いつも帰ると私の部屋に残る残り香の匂いがしたーー

葬儀が終わり家に帰っても、また晴がひょっこり来るようなそんな気がした。私は服を着替えてキッチンに立つと、晴の好きな料理を作った。作り終わりそれをテーブルに置いて、二人分のご飯に、お箸にお茶の入ったコップを置く。

「晴……晴の好きな肉じゃがを作ったよ?食べないなら私が食べちゃうんだから、だから……早くただいまって帰ってきてよっ」

私は涙が溢れた。暫く泣き、涙が止まると肉じゃがを見てボーッとしていた。すると一瞬、晴の匂いがした気がした。

私が泣くから晴が会いに来てくれたような気がしたーー

晴が亡くなって一週間、私は晴の実家に来ていた。仏壇の前に座り線香に火を付けて手を合わせる。

「夏海ちゃん、コレ、晴が夏海ちゃんに渡そうとしたみたいなの。だからコレは夏海ちゃんが持っていて」

そう言って渡されたのは小さな箱と『夏海へ』と書かれた手紙だった。私はそれを受取り家に帰ると先に手紙を読んだ。