「待ってくれ、新藤さん!」
(お父さん、この人知ってるの?)
「1時間でいい……この子にちゃんと説明する時間をもらえないだろうか?」
「新藤さん」と呼ばれた男性は、懇願し頭を下げる父を悲しげに見下ろした。
「……わかりました。私も立ち会います」
「すまないね……」

気まずい雰囲気の中、私たち家族と、
得体の知れないイケメン「新藤さん」はソファに腰を下ろす。
口火を切ったのは、父だった。
「サキ、実は私たちは、お前の本当の親ではないんだ……」
「は?」
(冗談にしてはタチが悪過ぎるでしょ!でも……)
私は嗚咽を漏らして泣くばかりの母に目をやる。
(この様子じゃ、冗談なんかじゃないよね……)

「子供のいない私たちは、里子を探して訪れた施設でサキと出会った」
父がそこまで話すと、新藤さんのバリトンボイスが会話に加わってきた。
「……我々は、子供を捨てたい親からその子を買い取り施設で育てている。小林サキ、君もその一人だった」
「……私が?」
(私が、親に捨てられた……?)
衝撃的でそれ以上言葉も出ない。
「記録によると、君の母親は身元不明の売春婦で、誤って妊娠したものの中絶費用を用立てられず、当座の生活費欲しさに生後間もない君を我々の組織に売ったそうだ」
事実かどうかなんて、わからない。
でも、この怪しいイケメンが嘘をついているようには……どうしても見えない。
「……」
私は茫然自失で絶句するよりほかなかった。

望まれずに生まれる子がこの世にいくらでもいることは知っている。
でも、そんなのどこか遠い世界の話だと思っていた。
(なのに……まさか自分がそうだったなんて)
俯く私を一瞥した後、新藤さんは話を続ける。
「小林さんは君を引き取ることを望んだが、我々の運営する施設に里子制度はない。なぜなら……施設の子供は商売道具、つまり『レンタル商品』だからだ」
「……はい?」
(身寄りのない子供が「レンタル商品」とか、どんな裏社会だよって感じ……)
心の中でそこまで突っ込んだ瞬間、さっきのテレビ画面が脳裏に浮かんだ。

ーー「『実はアナタも狙われている!?突然裏社会の組織が家族を拉致、平凡な日常が一変!!』……」ーー

(や、やめてよ……そんなの、全然笑えない……)