(っ…まさか……これ、妖力…?)






襖の目の前までやってきて

それ以上、体が動かない。





その代わりに

背後で彼が立ち上がった音と、
こちらへやってくる足音だけが

耳に聞こえてくる。





静かな空間に

彼が小さく笑う声が 響いていた。







「馬鹿だなぁ、華…。
ここから出られると思ったの?」








そして背後でそんな声が聞こえると

同時に ふわっ…と彼に抱きしめられる。




その仕草でさえゾクゾクして

私は唇を震わせながら
動けない体に、思わず涙を浮かべた。






そんな私の様子でさえ
彼には愉快で仕方ないのか、


抱きしめていた腕を片方上げると


そのまま私の首筋を伝って
優しく頬へと 滑らせる。





そして そっと-----顎へ添えられた。








「俺から逃げるなんて…考えちゃダメ。」







まるで

私の脳へ直接命令するように


その艶っぽい声色で
耳元から囁かれる。




その声に

私は鳥肌を立たせながらも



段々思考が蕩けていく様な、
何も考えられないようになっていくのを

静かに感じていた。








「もう華は俺のものだよ?
…絶対に、逃がしたりしない。」







絶対的支配感を感じさせるような
彼の言葉。




彼はそう呟くと


抱きしめていた私の体を
後ろへ倒すように小さく引く。




そして自分の方へ寄りかかるように
倒れてきた私の体を


そのまま優しく

畳の上へ───転がせた。







「さぁ……どうしよっか?華。」

「っ……。」

「俺に、どうされたい?」







先ほどまで真っ黒だった彼の瞳が

そう言うと同時に
ゆっくりと綺麗な金色へと変化する。





私を押し倒しながら

愉快そうに目を細める彼が



静かに私を───見下ろした。