部室に入ると油絵の具の臭いが懐かしさを思い出す。

大きなキャンバスに描き終えていない絵がたくさん並べてあった。

人の絵があったり、シンプルに林檎の絵。


「あっこれ宙の絵だね!」


空の絵が描いてあった。

家や鳥など何もないただの青い空。

少しだけ雲があるくらいで…。


「よく分かったな」


「まぁずっと見てきてたからね~」


幼い頃からずっと見てきたもの。

分かるよ宙の絵くらい。

シンプルなのに人を惹きつける力。


「あれ、宙の隣にあるこの絵…」


切り株の上に立つ白いワンピースを着た女の子。

森に囲まれ指揮をもっている姿。


「へぇ…。この絵凄いね…」


誰が描いたんだろう。


「あーその絵は…」


「私だよ!」


筆とパレットを持ってニコニコしている若菜が言った。


「えっこの絵を描いたの若菜なの?」


そうだよ。と言って椅子に腰かける。

上手いでしょ?

自信満々に私の事を見ている。



「今なら利愛に勝てるかもね!」


「そう言って私に戻らせようとしてるだけでしょ…」


私は若菜の目を見なかった。


「バレちゃったか~」


笑いながら絵を描いていく若菜の隣で真剣に

じっくり絵を見ながら描いていく宙。


「まっ少しは良くなってると思うんだけど?」


悪い笑みで私に言う。

笑っていると思ったら急に青い顔になった。



「いやぁあー!間違えたー!」


「集中しないのが悪い」


ギャーギャー騒いでる若菜を見てため息を吐いた。

今日だけ…。


「あのね、ここの部分を白で薄く塗ってみ?」


たぶん、緑で塗ろうとした所を青で濃く塗ってしまったみたい。

素直に頷いて白で塗っていく。


「うん、これでいいと思うよ」


薄くすることで周りの緑の絵が青のおかげで

引き立っている。


「利愛知ってた?今ね芸術家の顔になってたよ」


私は、その言葉に答えなかった。


「私、もう帰らなきゃ」


二人は笑って手を振ってくれた。