「……うん。つき合ってる、蒼佑くんと」



 まっすぐ瑞樹を見据えて告げた。はっきりとした声で。

視線の先には、目を丸くした瑞樹が映る。何度か瞬きをするのが見えたけど、視線を少しも逸らすことはなかった。



「電話、無視してごめん」

「……や、別に」

「話って何?」

「……や、」

「何?」

「……いや、もう、いいわ。話すこと、なくなった」



 天を仰ぐ瑞樹に、胸が熱くなった。

……わかってる、あの時のこと、言いに来たんだって。言い訳? 弁解? なんでもいい。とにかく関係を修復しようとしてくれているのはわかっている。

でも、それを拒んだのは自分だ。甘んじて、受け入れる。



目頭が、熱い。今の自分が泣いたらずるい。ただでさえ自虐的な自分だけど、今泣いたら自分を本当に軽蔑する。こんなときでも自分自身の保身を一番に案じていることに、頭が少し、冷えていく。



「……わり。邪魔したな。帰るわ」



 あ、これ土産な、と紙袋を指差して立ち上がる。玄関まで見送るつもりでいたけれど、手で制して、いいから、と合図する。



「……元気でやれよ」



 ニッと笑って背中を向けたけど、赤くなっている瞳が頭にこびりついて離れない。呆然と玄関を見て、頬が濡れたことには気づかなかった。






「百合子ちゃん」



 玄関を見て固まったまま動かない私を抱き寄せた。泣いた顔を見ないように胸に押し当てられたけど、その優しさが、今は痛い。



「……蒼佑くん、あたしは最低だよ…。罵ってくれ……」



 せめて瑞樹の代わりに怒ってくれと訴えたけど、「おれそんな趣味ないよ」と、笑わせてとくれようとしているのがひしひしと伝わってきて、余計に胸が締め付けられた。